2025年現在、労働人口の減少と働き方の多様化により、企業の人材獲得競争は激化の一途をたどっています。この課題に対し、人材業界大手のパーソルキャリアは、AI・生成AI技術を積極的に活用することで、業界の変革をリードしています。
本記事では、パーソルキャリアが展開する様々なAI活用事例を詳しく解説し、同社がどのようにテクノロジーを活用して人材サービスの革新を実現しているかを明らかにするので、ぜひ最後までご覧ください。
パーソルキャリアがグループ全体で掲げるAI戦略
パーソルホールディングスは、「"はたらくWell-being"創造カンパニー」として、AI・生成AI技術を積極的に活用し、100万人のより良い"はたらく機会"の創出を目指しています。2024年9月時点で、国内グループ社員の1万9,000人以上が生成AIを利用しており、これは全社員の約66％に相当する驚異的な浸透率を達成しています。
いったいなぜここまで高い浸透率を達成することができたのか、パーソルグループの掲げるAI戦略を見ていきましょう。
グループ全体でAIの活用を推奨している
高い浸透率の背景には、グループ全体で統一されたAI活用戦略があります。単に最新技術を導入するのではなく、各事業会社の特性や業務内容に応じた最適な活用方法を模索し、実装しているのです。
例えば、パーソルグループは転職サイトの「doda」や、アルバイト求人サイトの「an」といった著名なサービスを提供しており、職務経歴書の自動作成機能・行動ログに基づいたおすすめ求人の紹介といった機能にそれぞれAIを活用しています。
また、グループ横断的な知見共有の仕組みも整備されています。各社で得られた成功事例や失敗事例を共有することで、グループ全体としての学習速度を加速させることで、より効果的にAIを活用をすることができるのです。この取り組みにより、パーソルグループは人材業界におけるAI活用のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。
社内専用GPT「PERSOL Chat Assistant」の開発
パーソルグループは、安心して業務に活用できるセキュアな環境を整備した社内専用GPT「PERSOL Chat Assistant」を開発しました。
PERSOL Chat Assistantの開発において特に重視されたのは、セキュリティと使いやすさの両立です。人材業界では機密性の高い個人情報を扱うため、外部のAIサービスをそのまま利用することはリスクが高く、セキュリティを意識した環境構築が必須でした。開発チームは、データの暗号化、アクセス制御、監査ログの整備など、包括的なセキュリティ対策を実装しました。
さらに、使用感も社員の業務フローに最適化されており、特別なトレーニングなしに直感的に利用できる設計となっています。この結果、IT部門だけでなく、営業、人事、経理など様々な部門で活用が進み、業務効率化に大きく貢献しています。
AI基本方針の策定
2025年7月、パーソルホールディングスは「AI基本方針」を公開しました。この方針は、急速に進化するAIとその活用法の是非が問われる中で、グループ全体のAI活用の指針を明確化し、責任あるAI活用を推進するための重要な取り組みです。
この方針には、AIの倫理的な利用、プライバシーの保護、アルゴリズムの透明性確保、人間中心のアプローチなど、重要な原則が盛り込まれています。
この理念に基づき、パーソルグループでは、AIを活用することで社員がより創造的で価値の高い業務に集中できる環境づくりを進めています。また、AI活用における意思決定プロセスの明確化や、問題発生時の対応体制の整備など、管理・統括の部類でもAIを使った先進的な取り組みを実施中です。
パーソルキャリアにおける生成AI活用の具体例
ここでは、パーソルキャリアにおける生成AI活用の具体例を3つ紹介します。
転職サービス「doda」での革新的な取り組み
引用：doda
パーソルキャリアの主力サービスである「doda」では、2024年4月より生成AIを活用した職務経歴書作成支援機能を導入しました。この機能により、転職希望者は以下のような大幅な効率化を実現しています。
- 作成時間の短縮：従来の4分の1の時間で職務経歴書の作成が可能
- 書類通過率の向上：生成AI活用により書類通過率が3ポイント上昇
- 転職活動開始までのリードタイム短縮：最短1分で職務経歴書の基本部分が完成
転職希望者は、職種・役職・仕事内容の3つの質問にキーワードで答えるだけで、生成AIが最適な職務経歴書を自動生成します。この機能により、転職活動の最初のハードルである書類作成の負担が大幅に軽減されました。
また、生成AIの活用によって、以下のメリットが生み出され、キャリアアドバイザーの業務効率化にも大きく貢献しています。
- ・求職者の経歴分析の効率化
- ・適切な求人案件のマッチング提案
- ・面接対策アドバイスの作成支援
- ・転職相談での回答案の生成
AIマッチングシステムの高度化
パーソルキャリアの運営するアルバイト求人情報サービス「an」は、ブレインパッド社のレコメンドエンジン「Rtoaster（アールトースター）」とマーケティングオートメーションツール「Probance（プロバンス）」を導入し、求人と求職者のマッチング精度を大幅に向上させています。
これらのシステムの特徴は以下の3つです。
- 行動ログ分析：求職者のサイト内行動データを分析し、興味・関心を把握
- 類似マッチング：過去の成功事例をベースに、類似した候補者を自動的にレコメンド
- スペックマッチング：職種、業務内容、求めるスキル・経験に基づいた最適な候補者の提案
また、マーケティングオートメーション（MA）ツール「Probance（プロバンス）」の導入により、CV数の増加、CVRの向上、求職者一人ひとりに最適化されたメッセージ配信などのメリットも生み出されました。
データ・AIソリューション本部の設立
パーソルキャリアは、生成AIの台頭による人材サービスの変革期を見据え、「データ」と「AI」によりリードしていく組織「データ・AIソリューション本部」を設立しました。この組織は以下の役割を担っています。
- データ基盤の高度化：蓄積された膨大な転職データの分析基盤構築
- AI利活用の促進：新たなマッチング機会の創出
- イノベーションの推進：データとAIによる新サービスの開発
同本部には、データサイエンティスト、AIエンジニア、ビジネスアナリストなど、多様な専門性を持つ人材が集結しています。これらの専門家が協働することで、技術的に高度でありながら、ビジネス価値の高いソリューションの開発が可能となっています。
グループ企業での活用事例
ここでは、パーソルキャリアの関連会社が実施しているAIの活用例を紹介します。
パーソルビジネスプロセスデザインの導入事例
ヘルプセンター・カスタマーサービスを提供するパーソルビジネスプロセスデザインでは、生成AIを活用した研修用シナリオ作成で、以下のような成果を上げています。
- 作成時間を半減：約4時間かかっていた作業を約2時間に短縮
- 複数シナリオの効率的作成：短時間で多様なシナリオ制作が可能
- オペレーター教育の質向上：より実践的なトレーニングの実現
この取り組みにより、オペレーターの早期習熟が可能となり、サービス品質の向上につながっています。
従来、研修用シナリオの作成は経験豊富なトレーナーに依存しており、質のばらつきや作成負荷の集中が課題となっていましたが、生成AIの導入により多様で実践的なシナリオの作成が可能になりました。
例えば、クレーム対応、商品説明、技術サポートなど、様々な場面を想定したシナリオを短時間で量産できるようになり、新人オペレーターも多様な状況への対応力を効率的に身につけられるようになりました。また、生成AIが作成したシナリオをベースに、ベテラントレーナーが細部を調整することで、AIと人間の専門性を組み合わせた高品質な研修プログラムの実現にも成功しています。
パーソルイノベーションでの導入事例
引用：パーソルイノベーション
2024年5月、パーソルイノベーションは、PeopleX社と協業し、生成AIを活用した「AI模擬面接」サービスを若年層・エッセンシャルワーカー領域の人材紹介サービス『ピタテン』登録者へ提供開始しました。
このサービスの特徴：
- 対話型AI面接：実際の面接を想定した練習が可能
- 即時フィードバック：AIが面接内容を分析し、改善点を提案
- 24時間利用可能：時間や場所を選ばず面接練習が可能
AI模擬面接サービスの開発背景には、転職市場における深刻な課題がありました。特に若年層や未経験者にとって、面接は大きな心理的ハードルとなっており、準備不足により本来の能力を発揮できないケースが多く見られました。従来の人材紹介サービスでは、キャリアアドバイザーが面接対策を行っていましたが、時間的制約から十分な練習機会を提供することが困難でした。
AI模擬面接は、この課題を技術的に解決する画期的なサービスです。AIは面接者の回答内容だけでなく、話す速度、声のトーン、間の取り方なども分析し、包括的なフィードバックを提供します。さらに、業界別・職種別の面接パターンを学習しており、実際の面接により近い体験を提供できるようになりました。
社内でのAI活用を促進する施策
ここでは、パーソルホールディングスで行われているAI活用施策を解説します。
生成AI活用スキル向上プログラム
パーソルホールディングスは、2025年2月21日に「JAPAN HR DX AWARDS 2024」において「特別賞」を受賞しました。この賞は、社員の生成AI活用スキル向上施策が高く評価されたものです。
▼主な取り組み
- 社内オンラインコミュニティ：2,000人以上が参加（2024年10月時点）
- コミュニティラーニング：28回開催、2,400名以上が参加（2024年4月～10月）
- プロンプト共有：500件以上の活用事例を社員間で共有
特に注目すべきは、実践的なプロンプトの共有です。500件以上共有されたプロンプトは、営業活動、マーケティング、人事業務、データ分析など多岐にわたり、具体的な業務シーンでの活用方法が詳細に記載されています。
これにより、AIツールの使い方を知っているだけでなく、実際の業務で価値を生み出す活用ができる「生成AIマスター」が続々と誕生しました。
また、定期的なコミュニティラーニングでは、最新のAI技術動向や他社事例の共有も行われ、常に最先端の知識をアップデートできる環境が整っています。
社内コンテストの開催でノウハウを共有
パーソルキャリア主催の社内コンテストでは、80件以上の業務利用事例が集まり、実践的な活用方法の共有が進んでいます。
また、パーソルホールディングス主催の社内プログラムでは、所属会社や組織を越えた混成チームで15件以上の新規事例が開発されました。
社内でのAI活用促進において、アイデアソンとコンテストは重要な役割を果たしています。これらのイベントは、単に優秀な事例を発掘するだけでなく、組織全体でAI活用の機運を高め、実践的なノウハウを共有する場として機能しています。
生成AI資格試験の団体受験
社員が生成AI活用においてガバナンス意識を向上させ、正しくAIリテラシーを高められるよう、生成AI資格試験の団体受験を実施しています。
人材業界は個人情報を扱う機会が多く、AIの不適切な利用は重大なリスクにつながる可能性があります。そのため、技術的なスキルだけでなく、プライバシー保護、著作権、バイアスの問題など、AI利用に関わる幅広い知識の習得が不可欠です。
パーソルグループでは、資格取得を推奨するだけでなく、取得後のフォローアップ体制も整備しています。資格保持者による勉強会の開催、最新の法規制情報の共有、実務での課題解決事例の蓄積など、継続的な学習機会を提供しています。
パーソルキャリアの今後の展望と課題
ここでは、パーソルキャリアの今後の展望と課題に関して解説します。
更なる技術革新への取り組み
パーソルキャリアは、今後も以下の領域でAI活用を推進していく計画です。
- 予測分析の高度化：転職成功率の予測精度向上
- 自然言語処理の活用拡大：より自然な対話型サービスの実現
- マルチモーダルAIの導入：テキスト、音声、画像を統合した分析
これらの技術革新への取り組みは、単なる技術導入ではなく、人材サービスの本質的な価値向上を目指すものです。予測分析の高度化により、求職者は自分のキャリアパスをより明確に描けるようになります。例えば、現在のスキルセットと市場動向を分析し、将来的に需要が高まる職種や必要なスキルを予測することで、戦略的なキャリア形成が可能です。
自然言語処理の活用拡大では、より人間らしい対話が可能なAIアシスタントの開発を進めています。単に質問に答えるだけでなく、求職者の感情や不安を理解し、共感的なコミュニケーションを行うことで、転職活動のストレスを軽減できるでしょう。
データガバナンスとプライバシー保護
AI活用の拡大に伴い、以下の課題への対応も重要となっています。
- 個人情報保護：求職者データの適切な管理と活用
- アルゴリズムの透明性：AIの判断プロセスの説明可能性
- バイアスの排除：公平性を担保したマッチングの実現
データガバナンスとプライバシー保護は、人材サービスにおけるAI活用の最重要課題の一つです。パーソルキャリアは、この課題に対して包括的なアプローチをしています。まず、個人情報保護については、最新の暗号化技術と厳格なアクセス制御により、データの安全性を確保。データの利用目的を明確にし、求職者の同意を得た範囲内でのみAI分析を行う仕組みを構築しています。
アルゴリズムの透明性については、「説明可能AI（XAI）」の技術を積極的に導入しています。AIがなぜその求人を推薦したのか、なぜその評価を下したのかを、求職者や企業に分かりやすく説明できる仕組みがあるのです。バイアスの排除については、定期的なアルゴリズム監査を実施し、性別、年齢、出身地などによる不当な差別が発生していないかをチェックしています。
人材育成とスキルアップ
AI時代における人材サービスでは、ITリテラシーに富んだ人材の育成が急務となっています。
- AIリテラシーの向上：全社員のAI活用スキル向上
- データサイエンティストの育成：専門人材の確保と育成
- ハイブリッドスキルの開発：人間とAIの協働スキル
人材育成とスキルアップは、AI時代の人材サービス企業にとって最も重要な投資領域です。パーソルキャリアは、階層別・職種別の体系的な教育プログラムを構築し、全社員のAIリテラシー向上に取り組んでいます。新入社員向けには、AIの基礎知識から実践的な活用方法までを学ぶ必修プログラムを設け、既存社員向けには、スキルレベルに応じた段階的な学習機会を提供しています。
最も重要なのは、「ハイブリッドスキル」の開発です。AIが得意とする大量データの処理や パターン認識と、人間が得意とする共感力や創造性を組み合わせることで、より高い価値を提供できる人材の育成を目指しています。このような人材育成により、AI時代においても人間の価値を最大化する組織づくりを実現しています。
まとめ：人とAIが共創する未来の人材サービス
パーソルキャリアのAI活用事例は、人材業界におけるデジタル変革の最前線を示しています。同社は、単にAI技術を導入するだけでなく、人とAIが協働することで、より良い"はたらく機会"を創出することを目指しています。
生成AIの活用により、職務経歴書作成時間の大幅短縮、書類通過率の向上、キャリアアドバイザーの生産性向上など、成果を挙げればキリがありません。また、グループ全体で1万8,000人以上の社員がAIを活用し、社内での知見共有も活発に行われています。
今後も、パーソルキャリアは「"はたらくWell-being"創造カンパニー」として、AI技術を活用した革新的なサービス開発を続け、100万人のより良い"はたらく機会"の創出を目指していくでしょう。人材業界におけるAI活用のリーディングカンパニーとして、同社の取り組みは業界全体のデジタル変革を牽引する重要な役割を果たしています。
転職市場が急速に変化する中、パーソルキャリアのAI活用事例は、テクノロジーと人間の専門性を融合させることで、より質の高い人材サービスを実現できることを証明しています。これからも同社の革新的な取り組みに注目が集まることでしょう。
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