住まい探しは、多くの人にとって人生の大きな節目に関わる重要な行為です。結婚や転勤、子育てや老後など、ライフイベントごとに最適な住まいを選ぶ必要があり、選択の一つひとつが生活の質を左右します。
しかし、不動産市場では膨大な情報が氾濫し、どの情報を信じてよいのか分からないという不安もつきまといます。こうした中でLIFULL HOME’Sは、テクノロジーとりわけAIを活用し、住まい探しをより安心で快適な体験へと変えることに挑戦してきました。
LIFULL HOME’Sの抱えていた課題

便利な不動産ポータルとして成長してきたLIFULL HOME’Sですが、利用者の体験を阻害する課題がいくつも存在しました。
とくに深刻だったのは、虚偽情報による信頼性の低下、ユーザーが言葉にできない感覚的ニーズの扱いにくさ、そして相談相手がいないまま大量の情報を前に決断を迫られる状況です。以下では、それぞれの課題を詳しく解説します。
おとり物件による信頼性の低下
不動産ポータルサイトにおいて、利用者の信頼を損ねてきた大きな要因のひとつが「おとり物件」です。すでに成約済み、あるいは存在しない物件をあたかも実在するかのように掲載するケースが長年問題となっていました。
ユーザーが無駄な問い合わせをしてしまい、結果的に「このサイトは信用できないのではないか」と不信を抱く。そうした積み重ねは、業界全体のイメージ悪化にもつながっていました。LIFULL HOME’Sにとっても、この課題の解決は急務でした。
顧客が言葉にできないニーズを把握するのが難しい
住宅購入や賃貸を検討する人々は「明るい雰囲気がよい」「落ち着いたデザインにしたい」といった漠然とした希望を抱くものです。しかし従来の検索条件は「間取り」「築年数」「駅距離」といった数値が中心でした。感覚的な希望を反映できず、理想の住まいを見つけるまでに時間がかかり、検索体験が煩雑になる傾向がありました。
LIFULL HOME’Sは「顧客の感覚をどう検索条件に落とし込むか」という根本的な課題に直面していたのです。
情報に溢れているのに相談できる人がおらず顧客が決断できない
情報量が多いことは強みである一方、ユーザーにとっては「結局どれを選べばよいのか分からない」という悩みを生む要因でもありました。
大量の候補を目にしながらも整理できず、専門家に気軽に相談できない環境では、心理的負担だけが増してしまいます。検索結果を前に立ち止まり、不安を抱えたまま決断する人が少なくなかったのです。
LIFULL HOME’SにおけるAI導入の狙い

こうした課題を解消するためにLIFULL HOME’Sが選んだのがAIの導入でした。ただ利便性を高めるだけでなく、情報を信頼できる形で提供し、安心して判断できる環境を整えることを目的としています。
ここでは、企業理念や市場環境の変化を踏まえながら、同社がAI導入に込めた狙いを見ていきましょう。
企業理念とユーザー体験の重視
LIFULLの掲げる理念「あらゆるLIFEを、FULLに。」は、人々の暮らしをより充実させるという思いを込めたメッセージです。住まいは生活の基盤であり、安心できる住環境を選べることは人生を豊かにする大前提でもあります。
従来の不動産ポータルは情報の量で価値を示してきましたが、LIFULL HOME’Sが重視したのは「その情報がどれだけ信頼できるか」という点でした。AIを導入する目的は、利便性の改善だけにとどまらず、ユーザーが自分の選択に確信を持てる環境を整えることにあります。これにより理念の実践と顧客体験の質の向上を両立しようとしています。
市場環境の変化と信頼性ニーズ
現代の不動産市場は、情報が氾濫する「過多の時代」ともいえます。ユーザーは大量の物件データに触れながらも、本当に信頼できる情報を見極めるのが難しくなっていました。さらに、おとり物件のように虚偽や不正確な掲載が存在すれば、サイトそのものへの信頼を損ないます。
こうした環境下で求められるのは、単なる利便性の提供ではなく「正確で安心できる情報を届ける姿勢」です。LIFULLはこの点を重視し、AIによって不正確な情報を排除し、適切な選択肢を示す仕組みを導入しました。これにより、同社は単なる情報サイトから「信頼を基盤とした生活者支援の場」への進化を図っているのです。
導入されたAIサービス4選

LIFULL HOME’Sは、課題解決を実現するため複数のAIサービスを導入しました。その特徴は、裏方の業務効率化にとどまらず、利用者が直接体験する検索や相談に組み込まれている点です。
ここでは、チャット相談支援サービス「AI ANSWER Plus」、おとり物件検知システム、画像検索機能、さらに空き家適正価格を予測するMiraiE.ai連携という4つの代表的なサービスを取り上げます。
チャット型相談支援サービス「AI ANSWER Plus」
検索結果を前に「どの物件を選ぶべきか分からない」と迷うユーザーも少なくありません。そこでLIFULLは野村不動産ソリューションズと協力し、生成AIを活用したチャット相談サービスを開発しました。「AI ANSWER Plus」はMicrosoft Azure OpenAI Serviceを基盤に、利用者の自然な質問に応じてわかりやすく回答します。
FAQにはない柔軟な対応ができ、関連条件の提示や注意点の補足も可能。会話を通じた相談体験により、不動産探しに伴う心理的負担を軽減しました。検索から相談へと進化した新しいサービスは、ユーザーの納得感を高めています。
おとり物件の検知と自動非掲載機能
不動産業界の長年の問題である「おとり物件」。成約済みや実在しない物件が掲載されることで、利用者は無駄な問い合わせを強いられ、不信感を抱いてきました。LIFULL HOME’Sはこの課題に正面から挑み、社内に専門部署を設けてAI開発を進めました。
5年以上の研究の末に完成した仕組みは、2025年から本格稼働。AIが不自然な掲載や矛盾を検知すると自動的に非掲載とすることで、情報の質を守っています。これにより利用者は「信頼できるサイト」として安心して利用できるようになり、同時に業界の健全性向上にも貢献しています。
画像検索「イメージから探す」機能
「シンプルで開放感のある家がいい」「ナチュラルな雰囲気にしたい」といった漠然とした希望は、従来の条件検索では反映しにくいものでした。LIFULL HOME’Sはこの課題に対し、AIによる画像解析を活用した検索機能を導入しました。施工事例や契約者投稿の膨大な画像を学習したAIが、スタイルごとに分類。
ユーザーは好みのデザインを選ぶだけで関連事例や施工会社にアクセスできます。数値条件では拾えない「感覚的なニーズ」を反映できるこの仕組みは、住まい探しを直感的で楽しい体験へと変えています。
MiraiE.aiによる空き家適正価格の予測
LIFULL HOME’Sは、不動産情報を社会課題の解決にも活用しています。マイクロベース社が開発した「MiraiE.ai(ミラーエドットエーアイ)」に自社データを提供し、空き家の適正価格や再入居可能性を高精度で予測する仕組みを支援しました。
国土交通省のモデル事業として町田市や豊田市で実証され、予測精度は92%に達したと報告されています。これにより空き家対策が効率化され、地域再生への活用が期待されています。
AIを導入した効果とユーザー体験の変化

導入されたAIは、ユーザーの不安を軽減し、意思決定の質を向上させる大きな効果をもたらしました。信頼性の高い情報提供、直感的な検索体験、安心感のある相談環境が実現し、従来の不動産探しとは異なる新しい体験が生まれています。
以下では、実際にどのような変化があったのかを掘り下げて紹介します。
信頼性の向上と安心感
AIによるおとり物件検知の導入は、LIFULL HOME’S全体の信用を大きく押し上げました。従来、ユーザーは「本当に存在する物件なのか」という不安を抱えながら検索していましたが、AIが不正確な情報を排除することで「ここなら信頼できる」という安心感を持てるようになったのです。
その結果、問い合わせの質も向上し、無駄なやりとりが減少しました。正しく運営する不動産会社にとっても公平な競争の場が整い、業界全体の健全性確保にもつながりました。単なる機能改善を超え、利用者と事業者双方にメリットをもたらす成果といえます。
直感的な検索体験の提供
AIによる画像検索機能は、ユーザーの「言葉にしにくい希望」を反映する強力なツールとなりました。「ナチュラルな雰囲気が良い」「シンプルモダンが理想」といった感覚的な好みを画像で選択できるため、検索体験が直感的かつスムーズになります。
さらに、契約者の投稿データが加わることで、カタログ的な写真ではなく「実際に暮らしている人の視点」を参考にできる点も大きな魅力です。これにより、ユーザーは生活のイメージを具体的につかみやすくなり、最終的な意思決定の質が大きく改善しました。
AIとの対話を通じて意思決定をサポート
従来の不動産探しは「情報が多すぎて選べない」というストレスを伴うものでした。AIチャット相談の導入によって、この課題が大きく改善されました。ユーザーは気軽に質問を投げかけ、AIとの対話を通じて選択肢を整理しながら検討を進められます。
その過程で「自分に合った物件の条件」や「注意すべきポイント」が自然と浮かび上がり、安心して判断できるのです。単に効率化するだけでなく、利用者が納得しながら進められる体験へと変化したことは、AI活用の真価を示す事例といえます。
今後の展望とLIFULLの戦略

AI導入はゴールではなく、LIFULLにとって新たなスタートラインです。住まい探しの利便性と信頼性を確保した上で、社会課題解決や生活領域全体への応用が視野に入れられています。
空き家問題への取り組みや地方創生、さらには介護や子育て支援など、未来に向けた広がりが期待されます。ここでは、同社が描く戦略と業界への波及効果について詳しく見ていきます。
社会課題解決への応用
日本各地で深刻化する空き家問題は、地域の安全や景観、資産価値に影響を及ぼす社会的課題です。LIFULLは、この問題にAIを活用する取り組みを進めています。たとえば、MiraiE.aiを通じて空き家の発生確率や適正価格を予測することで、行政や住民が迅速に対策を打ちやすくなります。
AIによる分析は、従来時間とコストがかかっていた作業を効率化し、政策立案や地域再生の後押しとなります。住まい探しの信頼性向上にとどまらず、社会課題解決を支援する方向へと広がっているのです。
生活領域全体への拡張
LIFULLが見据えるのは、不動産情報に限定されない「暮らし全体の支援」です。住まいは生活の基盤であると同時に、子育てや介護、地域活動など多様な要素と密接につながっています。
AIを活用して、ユーザーが将来必要とする暮らしのサービスを予測・提案できれば、安心と利便性を兼ね備えた包括的なサポートが可能になります。これにより、LIFULLは単なる不動産情報サイトから、生活を幅広く支える「暮らしのプラットフォーム」へと進化することを目指しているのです。
業界への波及と未来像
LIFULL HOME’Sの取り組みは、他の不動産事業者にも大きな刺激を与えています。おとり物件検知や画像検索などの機能は「AIを使えばここまでできる」という実例として業界内に広まり、同業他社のサービス改善を促しています。
結果として、不動産情報全体の信頼性が高まり、利用者にとって安心できる市場環境が整いつつあります。LIFULLは先進的なモデルケースとして、業界標準の在り方を示し続けており、その影響力は今後さらに強まっていくでしょう。
まとめ
LIFULL HOME’Sは「おとり物件検知」「画像検索」「AIチャット相談」という三つの革新を通じて、長年の課題を克服してきました。これらは利便性と信頼性を両立させ、ユーザーに安心を提供する仕組みです。
さらに、空き家対策や地域社会への展開によって、理念「あらゆるLIFEを、FULLに。」の実現が進んでいます。住まい探しを「不安な作業」から「前向きな体験」に変えたLIFULL HOME’SのAI導入は、業界横断的にも示唆に富む取り組みといえるでしょう。
LIFULL HOME’Sとは?

LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)は、株式会社LIFULLが運営する日本最大級の不動産・住宅情報サイトです。新築・中古マンションや一戸建て、土地、賃貸物件に加え、注文住宅やリフォームなど幅広い住まい関連サービスを扱っています。掲載物件数は国内トップクラスであり、ユーザーは多様な条件をもとに住まいを探すことができます。
また、単なる情報提供にとどまらず、契約者の声や施工事例を取り入れた「暮らしのリアルな情報」を提供する点が特徴です。さらにAIやデータ分析を積極的に導入し、「おとり物件」の排除、直感的な画像検索、チャット型相談支援といった先進的な機能を展開。利用者が安心して効率的に理想の住まいを見つけられるよう支援し、不動産業界全体の信頼性向上にも貢献しています。
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