この記事では、鹿島建設株式会社とAI inside 株式会社の共同開発した資材管理システムについて解説します。システムの導入背景や業界への影響をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
建設業界におけるAI導入の背景

建設業界は、人材不足や安全性確保など多くの課題を抱えています。特に資機材管理は膨大なコストと時間を要し、業務効率の大きな妨げとなってきました。
鹿島建設とAI insideが共同で新しい資機材管理システムを開発した背景には、こうした業界特有の問題を解決したいという思いがあったのです。ここでは導入に至る経緯を詳しく解説します。
現場における資機材管理の限界

建設現場では数百種類に及ぶ資機材が日常的に使われており、その多くは屋外に点在しています。従来は職員が現場を巡回し、目視で状態を確認して台帳へ記録する方法が取られていましたが、1回の巡回に約120分を要することも珍しくありませんでした。
さらに、人が判断する仕組みである以上、見落としや誤記録などのヒューマンエラーが避けられず、管理の精度に限界がありました。こうした状況は全体の業務効率を阻害し、現場職員の負担を増やす要因となっていたのです。そのため、従来の仕組みでは管理体制に限界が明確化し、新しい技術導入への期待が高まっていました。
安全性への懸念と人材不足

資機材管理は現場を隅々まで巡回する必要があるため、職員は高所や狭所といった危険な場所へも立ち入らざるを得ませんでした。これにより事故リスクが高まり、安全管理の課題として長年指摘されてきました。加えて、建設業界は慢性的な人材不足に直面しており、限られた人員を効率的に配置することが急務です。
人手を要する巡回作業に多大な時間を割けば、本来注力すべき安全確保や高度な業務にリソースを回せなくなります。省人化を実現し、危険作業を軽減する新たな仕組みが求められたことが、AI導入を推進する大きな原動力となりました。
AI insideとの共同開発に至った経緯

鹿島建設は早くからDX推進を掲げ、外部パートナーとの協働にも積極的でした。その中で注目されたのが、AI insideが提供するAIプラットフォーム「AnyData」です。この技術はドローン映像や静止画など多様なデータを解析でき、資機材を自動で識別するのに最適でした。両社は共同で建設現場向けの資機材管理システムを開発し、実証実験を繰り返すことで実用化に成功しました。
この経緯は単なるAI導入ではなく、組織全体の課題を根本から解決するDXプロジェクトとして位置づけられており、建設業界の未来を見据えた取り組みだったのです。
システムの仕組みとAI導入の特徴

鹿島建設とAI insideが共同で開発した資機材管理システムは、従来の人力巡回を大幅に効率化する先進的な仕組みです。
ドローンを用いた空撮、AIによる自動認識、そして3Dモデルとの統合を組み合わせることで、省人化と精度向上を両立しました。以下では、主要な機能と特徴を詳しく解説します。
ドローンによる空撮とデータ収集

このシステムの最大の特徴は、ドローンを活用して現場全体を短時間で網羅的に撮影できる点です。従来は担当者が徒歩で数時間かけて確認していた範囲を、ドローンなら数分間の飛行で記録可能となりました。
さらに高解像度カメラによる空撮は、資機材の位置だけでなく状態も把握でき、損傷や劣化を客観的に確認できます。人の主観に依存しないデータの蓄積が可能になったことで、管理の透明性と再現性が大幅に向上しました。結果として、現場管理者は負担を軽減しつつ正確な情報を取得でき、従来よりはるかに効率的な資機材管理を実現しています。
AIによる資機材の自動認識

ドローンで収集した膨大な画像や映像データは、AI insideの「AnyData」を通じて解析されます。AIはあらかじめ学習した資機材のデータベースをもとに形状や特徴を自動判別し、位置情報と組み合わせて整理します。
現時点で約25種類の資機材を検出でき、特に人の大きさに近い大型機材を中心に認識が可能です。今後は小型の資材や複雑な形状を持つ機材にも対応が進められる予定で、対象範囲の拡大が見込まれます。これにより、人間の目視に頼っていた従来のあいまいな把握から、精度の高いデータベース管理へと進化しました。組織全体での管理体制を強化する大きな一歩となっています。
3Dモデルとの連携と可視化

解析されたデータは現場の3Dモデルに反映され、デジタルツインとして現場全体を可視化できます。資機材の位置や名称が立体的に表示されるため、管理者は実際に現場に出向かなくても状況を把握可能です。
さらに、未使用の資機材は色分けやマークで表示され、返却や再配置の判断が容易になります。また、資機材に付属するプラカードの内容をAIが読み取り、点検期限や使用制限日を自動表示する仕組みも整備されました。これにより、安全性を損なうことなく効率的に資機材を活用できる環境が実現しました。デジタルツインとの融合は、現場の「見える化」を加速させ、将来のスマート建設現場の基盤ともなる技術です。
導入の成果と数値で見る効率化

AIとドローンを組み合わせた資機材管理システムの導入は、従来の管理方法では達成できなかった大幅な効率化を実現しました。
作業時間や人員コストの削減だけでなく、安全性やコスト管理面での改善も確認されています。ここでは、数値で裏付けられた成果と具体的な効果について解説します。
作業時間の大幅削減

最も顕著な成果は、作業時間の削減です。従来は資機材確認に1回あたり120分近くを要していましたが、新システムでは約30分で完了できるようになりました。
つまり、作業効率は従来比で約4倍に改善されたことになります。この大幅な短縮は、現場職員が本来注力すべき業務へ時間を振り分けられる環境を生み出しました。さらに、作業が早く終わることで現場のスケジュールにも余裕が生まれ、全体の生産性向上にもつながっています。
人員不足が深刻化する建設業界において、時間という資源を最大限に活かす仕組みは競争力強化に直結しており、AI導入が単なる補助ではなく、業務基盤を支える重要な技術となったことを示しています。
安全性とコスト管理の改善

本システムは安全面でも大きな改善をもたらしました。従来の巡回方式では、高所や狭所などリスクの高いエリアへの立ち入りが避けられず、事故発生の可能性が常につきまとっていました。しかし、ドローンとAIによる遠隔確認により、人が危険区域に入る必要がなくなり、作業員の安全性は飛躍的に向上しました。
また、AIによる自動検出によって遊休資機材を可視化できるようになったため、不要なレンタル費用や重複発注を削減可能になっています。これにより、コスト削減と安全性確保という、これまでトレードオフとされてきた課題を同時に解決しました。結果として、企業にとって持続的に利用できる効率化のモデルケースとなり、建設業界全体への波及効果も期待されています。
国交省プロジェクトでの実証

鹿島建設とAI insideの取り組みは、国土交通省が進めるPRISM(革新的技術導入プロジェクト)に採択され、新潟県長岡市の大河津分水路の改築工事にて実証されました。大規模公共工事という厳格な環境下で導入効果が確認されたことは、このシステムの信頼性を大きく高める要因となっています。
特に、公共事業においては安全性や精度が最優先されるため、その場で有効性が立証された意義は非常に大きいといえます。制度的裏付けがあることで他の企業や自治体も安心して導入を検討でき、業界全体のDX推進を後押しする効果をもたらしています。このように、単なる企業内の効率化にとどまらず、社会的に認知された技術として普及が進むことは、建設業界におけるAI活用の新たなスタンダードを築くことにつながるでしょう。
今後の展開と業界への影響

鹿島建設とAI insideが共同で開発した資機材管理システムは、実証実験を経て効果が確認されましたが、これはあくまでスタート地点に過ぎません。
今後は小型資機材への対応やデータベース連携の強化など、さらなる進化が予想されます。業界全体に与える影響も大きく、DX推進の標準モデルとなる可能性を秘めています。
小型資機材への対応と精度向上

現行システムの対象は、人の大きさ程度の大型資機材が中心ですが、今後は小型資機材への対応が重要な課題となっています。現場では工具や部品など小規模資機材も多数使用され、それらが紛失・未返却となるとコストや工期に大きな影響を与えます。AIの学習データを増やすことで、小型資機材を高精度に検出し、管理対象の範囲を拡張する取り組みが進められています。
これにより、従来は管理が難しかった細部までの把握が可能となり、資機材全体のロスを最小化できます。さらに、認識精度が向上すれば、現場ごとに異なる資機材配置や使用頻度を踏まえたカスタム管理が実現でき、より柔軟で実践的な運用が可能になるでしょう。
データベース連携による高度な管理

今後の展望として、資機材管理データを既存の施工管理システムやERPなどと連携させる取り組みも始まっています。AIが解析したデータが自動でデータベースに反映されれば、現場とオフィス間でリアルタイムに情報を共有可能となり、意思決定のスピードが飛躍的に高まります。
たとえば、資機材の在庫状況をもとに発注を自動化する仕組みや、遊休資機材を他現場へ振り分ける運用も考えられます。こうした仕組みは、資機材の有効活用率を最大化し、コスト削減と効率化を同時に推進する大きな武器になります。建設業界全体での情報フローが効率化されることで、業界のDXが一層加速することは間違いありません。
建設業界のDX推進モデルとしての意義

鹿島建設とAI insideの取り組みは、単なる一企業の効率化事例にとどまらず、業界全体の変革を象徴するモデルケースといえます。特に人材不足、安全性確保、コスト最適化といった課題は、多くの建設企業が共通して抱えるものです。
その解決策としてAI導入が有効であることを示した今回の事例は、他の建設企業にも強い示唆を与えています。国交省プロジェクトでの実証という信頼性も後押しとなり、今後は業界全体で導入が広がる可能性が高いでしょう。資機材管理の効率化は単なる業務改善にとどまらず、建設業界全体の競争力を底上げし、持続可能な社会インフラ構築の一助となるはずです。
まとめ
鹿島建設とAI inside株式会社が共同開発した資機材管理システムは、AI導入による省人化と効率化を実現した成功事例です。ドローン空撮とAI解析を融合させることで、作業時間は75%削減され、安全性やコスト管理も大幅に改善しました。
国交省プロジェクトへの採択を経て実用性が確認され、今後の技術進化と横展開が期待されています。この事例は、組織が抱える課題をAIで解決し、建設業界のDXを加速させるモデルケースといえるでしょう。
鹿島建設株式会社について

引用:鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社(Kajima Corporation)は、1840年に創業した日本を代表する総合建設会社で、本社を東京都港区に置いています。ゼネコン(大手総合建設業者)の中でも売上・技術力で国内外トップクラスを誇り、ダム、道路、橋梁、空港、超高層ビルなど数多くの社会インフラや建築物を手がけてきました。
長年にわたり「信頼の鹿島」として知られ、東京駅丸の内駅舎や霞が関ビルディングなど、歴史的建造物から最新の都市開発プロジェクトまで幅広い実績を有しています。近年は建設DX(デジタルトランスフォーメーション)にも注力しており、AI、IoT、ロボット、ドローンなどを積極的に導入することで、省人化・効率化・安全性向上を図っています。また、再生可能エネルギー事業や海外プロジェクトにも展開し、環境配慮型の建設やサステナブル社会の実現にも貢献しています。
AI inside株式会社について

AI inside 株式会社(AI inside Inc.)は、2015年8月に東京都渋谷区で設立されたIT企業です。AIを活用したOCRサービス「DX Suite」を中心に、業界トップクラスの市場シェアを誇ります。
主力商品には、非定型帳票対応が可能なAI-OCR「DX Suite」、エッジ型AIプラットフォーム「AI inside Cube」、マルチモーダル統合基盤「AnyData」などがあり、社会インフラや業務におけるAI活用に幅広く貢献しています。また、AIエージェント「Heylix」やAI人材育成を支援する「AI Growth Program」といった先進的な取り組みによって、DXを推進する企業として評価されています。
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